「家を買うと、家賃よりも安くなりますよ」というセリフを考えてみましょう
家を建てよう、買おうと考えている時に、よく「家賃より家を買った方が安くなり、お得ですよ。頭金もいりませんよ」と周りの人や特に営業マンにいわれたことはないでしょうか。
「えっ!そういえばそうかもしれない」
「何も資産としては残らないのに、家賃が高い!」と思っている時に、マイホームが持てて、資産にもなり、しかも家賃よりも安くなるなんて、いいことづくめで夢のような話です。
そんな甘―いセリフを聞いた日には、ついフラフラとなびきそうになってしまいます。
本当にそんなうまい話があるのでしょうか。
いっしょに考えてみましょう。
家を買えば月々どれぐらい本当はかかるのでしょうか?
月々の返済額が家賃よりも安くなるように計算するには、住宅ローンの金利を安く見積もることにまずなるでしょう。
その場合の計算方法として、一般的に金利が低い変動金利の金利を使い、返済期間も例えば35年のように、長期に設定して、とにかく月々の返済額を少なく見えるように抑えた金額を住宅会社の営業マンに提示されることも多いようです。
営業マン「今の家賃ってどれくらいですか」
お客様 「(いきなりの質問に戸惑いながらも)8万円ぐらいですかね。」
営業マン「(目を輝かせて)それではいっそ買った方がお得でございます。」
一般的にはまず、まとまった金額の「頭金」と呼ばれるものが必要で、残りの費用を住宅ローンで借りて、月々返済していきます。すでに支払った頭金の存在を無視して、住宅ローンの返済額だけで、現在の家賃と比較して、安いと言ってみても意味がないのですが、これは別の機会でも話します。
例えば2000万円の住宅ローンを組んだとします。2000万円を変動金利0.8%で35年ローンであれば、月々5.5万円程度になりますが、返済総額は2294万円にもなり、その内300万円近くが利子です。
変動金利は文字通り、変動しますのでそのリスクもありますが、改めて話すとして・・・
この月々5.5万円だけをみて、「今の家賃より安い!」と思われるかもしれませんが、実際はどうでしょうか。
実はその前に、家を購入する時点で、税金や住宅ローン保証料、不動産の登記費用等、諸費用がかかり、数十万円が間違いなくあなたの財布からすでに出ていっています。
この出費は家を買わなければ、払わなくても済むものです。
先程もふれましたが、「頭金」も払っているはずです。
賃貸では敷金礼金がありますが、頭金と比べるとかなり少ないはずです。
(敷金礼金の意味の違いやその他の話はまた改めて)
それ以外に住み始めても、固定資産税、マンションであれば管理料、修繕積立金、場合により駐車場代もかかります。
仮ですが固定資産税が月々1万円、管理料、修繕積立金があわせて3万円、駐車場代が1.5万円かかるとします。
するとどうでしょう。5.5万円で安いと思っていた月額ですが、さらに5.5万円上乗せになり、実は11万円になっています。気がつきにくいですが(さすがに気がつくか)、財布からは確実に消えていくお金です。
持ち家ということは資産になるので、いざとなれば売ればいいやという考えが通用すればいいですが、それは立地や人気度、需要等の条件で左右されます。これからの人口減少時代に中古の物件がどこまで売れるのか疑問です。
余程条件が良い物件でないかぎり、売りたくても買い手がいなくて、売れないかもしれません。
暗い話をして申し訳ありませんが、家を買う行為は、それぐらいのリスクは想定しておく必要があるのです。
家を買うことに関しては、悪い将来も想定しましょう。(いやな話ですが)
「たった5万5000円か。今の家賃より安いし、何よりもマイホームが手に入る。家賃は払っても自分のものにはならないし。そういえば今はキャンペーン期間でお得って言っていたよな。返事を早くほしいと言われたし・・・よし決めるか!」
この状態が危険極まりないことは、もう想像がつくでしょう。
ローンの月々の支払い以外にたくさんの費用がいることを理解した人でも
「5万5000円と言われたけど、実際のところは月11万円か。うちの家計ではギリギリかもしれないけど、何とかなるな。節約できそうなところもあるし。」・・・と考えてしまうかもしれません。
「家計でギリギリなのに買ってしまう」この状態も気をつけなければなりません。
将来は誰も読めませんし、余程の覚悟や我慢をしないかぎり、今以上の節約ができたとしても、すずめの涙程度かもしれません。
不動産投資で儲けようとしている人はさておき、普通はすぐに転売しようとして、家を買うわけではないと思います。
やはり長い期間、大事に使いながら、幸せな人生を歩んでいくという考えで家を買うかと思います。
長い期間を考えた場合、さまざまなリスクがあります。
ひとつは病気やけがのリスクです。
病気やけがで働きにくくなったり、障害が残ってしまった場合は、収入減少の問題だけでなく、家のつくりが車いす等に対応できず、大幅なリフォームが必要になることもあります。
二つめは、仕事にかかわるリスクです。
リストラは自分の仕事ぶりを否定されたかのように感じる人も多く、しかも自分の意志ではなく、会社の都合で決められてしまいます。しかし会社都合による解雇なので、退職金などの条件が比較的いい場合もあります。(会社によりますのですべてではありません。)
早期退職の募集にのる場合は、ある程度自分の意志も入るうえに、条件がいい場合があります。最も大変なのは、会社に居づらくなったりして、自ら辞める場合です。
いわゆる「一身上の都合で・・・」という自己都合の退職は、会社都合に比べ退職金等の条件が悪い傾向があり、さらに失業保険も数カ月は出なかったりします。
リストラや退職をしないまでも、ボーナスカットや昇給がほとんど無いような事態はけっして、珍しいことではありません。むしろこの先長い間、昇給し続けるたり、ボーナスが上昇し続けることの方がレアケースなのかもしれません。今回の新型コロナウィルスの影響でもそのような話には枚挙にいとまがありません。
三つめは、離婚などの家族の変化のリスクです。
離婚が珍しくなくなっています。人生にとって良くも悪くも大きな転機ですが、お子さまがいらっしゃる場合は親権や養育費、浮気等が原因であれば慰謝料、その他決めごとがたくさんあります。
一般的に財産も双方の合意のもと分けなければいけません。
家は不動産ですので、現金などと違って、簡単に分けにくいです。
せっかくのマイホームでも売却して、現金化するケースや片方が住み、不平等分は現金のやりとりでまかなうケース、中には離婚後も同居し続けるケースもあり、双方が合意すればさまざまな形がありそうです。
最後にリスクではなく、前向きな「変化」としたいですが、お子さまの進路がたまたま私立の学校だったり、あなた自身が起業をして夢をかなえたくなったりするかもしれません。
実は私も順風満帆で楽しかった大企業人生をやめて、起業しましたので前向きにとらえたいです。(願望)
リスクや変化のことでかなりの文字数を費やしてしまいましたが、そればかり考えて、何もできなかったり、不満を持って暮らすことは本末転倒で、最も避けたいところです。
人生は1回きりですし、なによりも楽しくないですからね。
家を買うということは、家賃よりも安くなるケースはほとんど期待できない上に、「身軽さ」もなくなるわけですから、ギリギリで無理のある資金計画や納得のいかない家づくりは避けるべきでしょう。